融合(Fusion)で実現するDX推進
2025.12.03
AIをはじめとする先進テクノロジーの急速な進化により、世界はかつてない転換期を迎えています。そうした中、AKKODiSでは企業および組織の現場との“融合(Fusion)”をサービスコンセプトとした独自のアプローチにより、お客さまの事業変革を推進させていこうとしています。未来に向かっていかにビジネスを変革していくべきなのか、NTTデータグループ田中秀彦氏とAKKODiSコンサルティング脇一智が語り合いました。

AIがもたらすビジネス変革の現状
脇一智[以下、脇]: AKKODiSはお客さまのプロジェクトに参画し、お客さま社員と一緒になってプロジェクトを推進するビジネスを得意としています。“共創“というキーワードが定着して久しいですが、当社ではこの共創を更に加速させる新しいコンセプトとして“融合(Fusion)”を掲げています。両社のアセットを持ち寄り、真に一つになる新しいパートナーシップを創造することで、お客さまの事業変革を進めていきたいと考えています。
田中秀彦氏[以下、田中]: 新しいことや大胆なことを打ち出そうとするとき、マネジメント側は思い切って舵を切らなければいけません。そうした仕組みづくりをする上でも、「共創」や「融合」といったキーワードは重要だと感じています。
脇 : 共感いただきありがとうございます。AIがもたらすビジネス変革についてお話していきたいのですが、貴社では具体的にどのような取り組みをされているのでしょうか。
田中 : 当社では主にソフトウェア開発にAIを適用しています。ノーコードAIを使えば、従来のソースコードを書く必要がありません。そうなると、業務のプロセスや役割の性質、従業員に求められるスキルは大きく変わってきますよね。一方で、課題もあります。AIを活用することによる業務効率化の効果は、コーヒーブレイク一回分程度にとどまっていると指摘する調査もあります。コストはかかる一方で、プラスαの価値創出にはつながっていない。この点こそが、今後の大きな課題だと感じています。
脇 : AIの本当の効果を実証するのは、結構難しいことなのかもしれませんね。
田中 : おっしゃる通りです。AIの使い方だけでなく、業務のやり方や変え方まできちんとサポートしていかなければ、現場にはうまく根付かない。NTT DATAが行いたいのは、単なるツールの提供ではなく、新しい価値の創造です。そのために、スピード感を持った「攻め」の姿勢で、お客さまのビジネス変革を支援していく。ここに、我々の存在意義があると信じています。
脇 : AIを活用することで生まれる効果について、具体的にはどのようにお考えですか?
田中 : 最も重要なのは、お客さまのバリューチェーンを変革できるという点です。やり方としては、当社を最初のクライアントとする「クライアントゼロ」という方法と、お客さまの企業に深く入り込んでサポートする方法の2つがあります。AI営業はどこにでも存在しますが、バリューチェーン全体を根底から変革するためには、やはりお客さまの企業に深く入り込み、どこにフォーカスしてAIを適用すれば良いのかを見極めることが大事だと思います。
脇 : AIを活用したDX推進において、お客さまからの引き合いが多いのか、それとも貴社の提案の熱が高いのか、現状はいかがでしょう?
田中 : ITシステムに関わるプロジェクトでの引き合いが多いですね。当社はOpenAIとパートナーシップを結び、AIエージェントを開発しています。LITRONⓇ※1というAIエージェントを活用したサービスを提供しており、そこを入り口にお声がけいただく機会も増えています。
※1 NTTデータが提供する先進的なAI技術を活用した業務の効率化・高度化を実現するサービスの総称
DX推進において求められる人財
脇:プロジェクトを進めていく中で、お客さまとの距離をさらに縮めていくために、どのような人財やパートナーが必要だとお考えですか?
田中:求められているのは、FDE(フォワードデプロイドエンジニア)ではないでしょうか。現場に入り込み、AIを用いて業務プロセスを根底から見直し、その場でプロトタイプを作って実証する。お客さまの立場になって本気で考えることが、より必要とされる時代になっていくのだと感じます。
脇:まさに当社のビジネスコンセプトが力を発揮するテーマですね。
田中:単純にテクノロジーだけを追いかけているだけではだめで、お客さまから情報を引き出し、業務を理解しなければ、分析の仕方もわからない。近年注目を集めるデータサイエンスにおいても、コミュニケーションスキルは欠かせない要素だと考えています。
脇:そこは外せないですよね。
田中:その点、AKKODiSさんは我々のために親身になって考えてくださいますし、一緒に成長してくださる。でも、あまりに親身になりすぎると、相手企業の従業員になってしまう可能性も出てきますよね(笑)。
脇:業界あるあるですね(笑)。当社の場合、お客さまとの協働が基本スタイルであり、そのための評価軸と報酬体系が整っているのですが、FDEのような新しい職種ができればさらに新しい評価制度が必要になってくると思います。そういった変化に対応していくために何か工夫されていますか?
田中:プロジェクトでどれだけの成果を出せたのかを評価するために、組織や個人のKPIを策定しています。もちろん売上利益もありますが、その評価軸だけではわからないですよね。我々のような技術の領域だと、お客さまのニーズにどれだけ沿ったオファリングを提供できるかという話になります。それを判断するためには、お客さまから直接フィードバックをもらった方が良いかもしれませんね。
脇:多様なお客さまのニーズがあり、プロジェクトもさまざまではありますが、すべてに通じる普遍的なゴールは「お客さまを感動させる」だと考えています。
田中:なかなか定量化しにくい話ではありますが…。
脇:Fusionによるサービスを提供した後、お客さまにアンケートをとっていまして、その結果を評価の一部に使っています。
田中:お客さまの生の声を聞くアンケートの実施、面白いですね。
脇:これまでは社内評価だけだったのですが、それだけでは真の成果は評価できないという話になりまして。
田中:システムエンジニア系のプロジェクトは、どうしても数字で評価されてしまうのですが、その結果は配属されるプロジェクトの規模や性質にも左右されるため、難しいところがあります。より大きなプロジェクトに入れば社内評価は高くなる傾向がありますよね。
脇:そうなんですよ。もちろん社内評価もしますが、公平性に限界もありますよね。
田中:やはりお客さまからのフィードバックはすごく大事。「感動した!」というストーリーがあると嬉しいですよね。そういう視点で評価を出すマインドセットもありますよね。ぜひ参考にさせてください。
グローバルビジネスでの両社の融合(Fusion)による新たな可能性
脇:Adecco Groupは人財のトータルサービスをグローバルで展開していまして、テクノロジー領域を担当するAKKODiSグローバルは、約7,000億円規模のビジネスを30カ国で展開しています。そのグローバルアセットを生かして、日本企業が手がけるグローバル戦略に貢献していきたいと考えています。
田中:NTT DATAの場合は、もともと国内での競争力が強く、M&Aを繰り返しながら世界50カ国以上に拠点を広げてきました。現在は、従業員数も売上高もグローバルの方が日本を上回っています。2022年10月には、NTTグループの海外事業会社であるNTT Limitedを統合し、海外のデータセンター事業を強化しました。この統合により、エンドツーエンドでコンサルティングからシステム運用・保守までをトータルサポートするだけでなく、データセンターなどのインフラ領域・ネットワークビジネス・上位のアプリケーション領域まで対応したフルスタックソリューションをワンストップで提供できる強みが加わりました。
脇:データセンターのようなインフラビジネスを持つコンサルティングファームは、世界的にも非常にユニークですよね。一方で、事業を統合すると、想定していたほど事業間のシナジー効果が発揮されないというケースも耳にしますが…。
田中:いわゆる「コングロマリット・ディスカウント」ですね。複雑すぎて事業内容がわからない企業グループの価値は、各事業を単独で評価した合計よりも低くなってしまう現象です。しかし、NTT DATAが目指すのはその逆の「コングロマリット・プレミアム」です。事業間のシナジー効果によって、各事業の合計価値よりも高い企業価値を生み出すことを目指しています。そういう意味では、AIの活用やデータセンターを持っている強みは大きいと考えています。
ところで、「NTT DATAってどんなイメージの会社ですか?」と聞くと、どんな答えが返ってくると思われますか?
脇:日本でいうと、最大手SIerではないでしょうか?
田中:ですよね。しかし、当社のマーケティングチームの調査によると、「データセンターの会社」という声が最も多く挙がっているのです。
脇:確かに、データセンター事業を他事業との掛け算として、意識的に打ち出されていますよね。
田中:AIが入ることでSIerビジネスも大きく変わっていく。データセンターを持っていることがプラットフォームとしての強みにはなるかなと思っています。
脇:多くのグローバル企業の中で、貴社のように最先端の技術開発・システム基盤・インフラの3つを兼ね備えたグローバル企業は、世界的に見ても非常に珍しい。競合他社が参入しにくいと思います。特に、NTTのR&D部門、研究所関連の業務をお手伝いさせていただいている関係もあり、そのユニークさを強く感じています。これは、R&D(研究開発)のせめぎあいが続く海外においても同じ。新しくデータセンター事業も加わり、インフラ基盤と開発力、海外M&Aの可能性なども含めて、かなり網羅性があると思っています。
田中:その強みを最大限に引き出せるかどうかというのがポイントではあります。
脇:通常、 SIerやコンサルティング会社は研究所のような機関は持っていないのですが、貴社は独自の研究開発施設をお持ちですよね。
田中:NTTの研究所には、およそ2,300名の研究者が在籍しています。具体的には、4つの総合研究所とそれに属する14の研究所で構成されています。
脇:それは間違いなく非常に大きなアドバンテージだと思います。
田中: TOBが成立したこともあり、お客さまの要望も含めてよりしっかりしたものをつくっていけると思っています。
脇:グローバルビジネスにおいて、以前はNTTドコモビジネスさまが力を入れられてきたと思いますが、ここ数年のグループ再編の動きとしてNTT DATAさまへの移行は進んでいるのでしょうか?
田中:今は完全に一体化しています。NTT Limitedと統合して集約され、現在はデータセンタービジネスのほか、日米を繋ぐ太平洋横断海底通信ケーブルの建設・運営も担っています。
脇:貴社のグローバルビジネスとAKKODiSグローバルを掛け合わせられるのはどんなシーンがあるとお考えですか?
田中:地域や領域によって強み・弱み、やり方や規模感が違っていたり、保守や開発、コンサルテーションなど、求められる分野が全く違ったりするので、そこを補完できるかどうかが一つのポイントになるかと思います。
脇:例えば、Adecco/AKKODiSの営業力はヨーロッパ、特にフランスが強く、いわゆる国家プロジェクトや警備等のセキュリティ分野など幅広くAdeccoが請け負っています。それらの関係を営業支援的に使っていただく可能性はあるのでしょうか?
田中:例えば、JMNC(日系多国籍企業)と協力して海外市場に事業を広げるなど、戦略的にフィットすれば、変革パートナーとして支援していただく可能性は出てきますよね。
脇:AKKODiSグローバルの戦略の一つとして、世界規模で事業を展開するクライアント10社を選定して、リソースを集中していくプロジェクトが始動しました。実は、その中のひとつとしてNTTグループさまを挙げさせていただいており、AKKODiSグローバルとして全力投資する方向性です。つい先日、責任者が着任したばかりで、来年の戦略と予算について各国にコミュニケーションを取り始めています。今後はグローバルもローカルも色々なご提案ができると思っております。
田中:ぜひお声がけください。貴社の強みを生かして、さまざまな形で融合することができればと思います。
構想から6年。IOWNⓇ実現に向けた融合
脇:最後に、NTTグループさまが取り組まれている次世代通信基盤「IOWN(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network)」についてお話を伺いたいと思います。
田中:AIの普及により、データセンターの需要が急速に増加し、それに伴う消費電力量の増加が世界的な問題となっています。そこで、NTTグループ全体として2019年に提唱したのがIOWNです。IOWNは、光電融合技術を軸とした次世代コミュニケーション基盤です。従来の電気信号を光に置き換えることで、省電力、大容量、低遅延を可能にする画期的な技術構想です。
脇:当社もIOWN Global Forumのスポンサーメンバーの一員として参画し、「教育」というテーマでIOWNを推進しています。今年リリースした「IOWN構想基礎研修2.0」は、NTTドコモビジネスさま監修のもと、最新の技術情報を盛り込み、より現場に即した内容に刷新しています。すでに英語版も出来上がっており、IOWN Global Forumのメンバーにも使っていただいています。また、今年6月には、AKKODiS本社内に「AKKODiS IOWN FUSION BASE」を新設し、IOWN構想基礎研修の実施拠点としての機能に加え、さまざまなステークホルダーとの共創・融合を促進する場として位置づけています。
田中:意外と当社内でもIOWNはそこまで認知されていないので、貴社の研修を受けた方が良いかもしれませんね。(笑)
脇:ぜひご発注よろしくお願いします!(笑)
田中:サービスの第一弾として2023年に「IOWN 1.0」の提供を開始し、2025年の大阪・関西万博では最新版の「IOWN 2.0」を披露しました。現在、IOWN Global Forumのメンバーにも加わっていただき、データセンターを活用されている企業を中心にPoC(Proof of Concept:概念実証)を行っています。将来的には、光電融合デバイスを半導体パッケージ間に適用する「IOWN 3.0」、半導体パッケージ内に光電融合技術を適用する「IOWN 4.0」の実現を見据えています。開発にはある程度時間がかかりますが、そこまで到達すれば競争力は格段に上がるものと思われます。
脇:我々もIOWNの進展に期待しています。
田中:国内ではキャリアとしてネットワーク装置を売る。海外ではデータセンターとうまく融合させながら、Next-Gen Infra※2の実現を目指す。今後、IOWNをデータセンタービジネスとどう組み合わせるかがカギになります。ユニークネスという意味では、IOWNは相当武器になると考えています。結果として先進的なソリューションを提供できれば、マネタイズ戦略へと進んでいけると思っています。
脇:IOWN構想そのものは、決してインフラだけではなく、ユーザー目線での世界観、価値提供をゴールとして掲げられています。このたびの完全子会社化もIOWN構想実現に拍車をかける打ち手の一つになると考えています。ユーザーに強いNTT DATAさまと一緒になって展開していけると期待しています。
田中:ご期待ください。とはいえ、ユースケースの開拓・実証は簡単ではありません。AIやデータセンター、エネルギーの問題など山積しているので、それらをどうやって突破していくのかが課題です。ご存じのように、NTT研究所の光の技術は世界トップクラス。その強みを生かしながら、IOWN Global Forumを通じてグローバル企業とパートナーシップを結び、エコシステムを築いていきたいと考えています。
脇:IOWNの特長が生きそうな業界として最初に思いつくのが金融です。正確性とスピード、セキュリティの観点においても強いのではないかと感じています。
田中:IOWN Global Forumにはスポンサーメンバーとして金融機関も参画いただいており、IOWNの金融ユースケースでの適用検討を行っています。日々の運用に加えて、自然災害やサイバー攻撃などのリスク対策も課題のひとつ。リモート拠点におけるディザスタ・リカバリを考える上でも、既存のネットワークよりもIOWNの方が適しています。今後、ユースケースを増やしながらお客さまと共に課題解決に取り組んでいければと考えています。
脇:各社が光電融合デバイスを用いた光スイッチを開発し始めています。ようやく貴社のIOWNのコンセプトが世界的にも理解されてきたのだと感じます。
田中:そうですね。今後、IOWNを推進していくためには、やり方も含めてNTT DATAとしてしっかりと構築していく必要があると思っています。
脇:当社はベンダーではありませんが、IOWNというキーワードの中で、教育やノウハウの蓄積についての貢献が可能です。ぜひそういう観点から協力させていただければと思っています。
田中:マネタイズやソリューションが明確になっていけば、当然セールスやコンサルティング、デリバリー、保守も必要になってきます。そういったさまざまな場面で、グローバルも含めた教育が重要になってくるので、ぜひお力添えいただければと思います。
脇:サーティフィケーションもテーマの一つとして議論されています。そのあたりも注目いただければと思っています。本日はありがとうございました。
田中:こちらこそありがとうございました。
※2 Next-Gen Infra(ネクストジェン・インフラ):NTTデータグループが掲げる注力領域の一つ。インフラ領域での強みを磨きこみ、中期計画における成長コンセプト「Quality Growth」を実現する。
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